日本生物地理学会 2005年度大会ミニシンポジウム

次世代にどのような社会を贈るのか?

2005年4月10日(日)15:00-17:30
立教大学7号館 7102号室(〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1)


[趣旨] (森中 定治)

  日本生物地理学会は1928年,鳥類学者の蜂須賀正氏と当時生物地理学の第一人者であった渡瀬庄三郎によって, 生物地理学主な研究対象とした学会として,フランスに次いで世界で2番目に設立された.

  蜂須賀正氏は,2003年(平成15年)に開催された彼の生誕百年の記念シンポジウムにおいて ”型破りの人”であったとの評がなされたが,自己の信念と哲学に基づいて時代を駆け抜けた人であった. 渡瀬庄三郎は,区系生物地理学における旧北区と東洋区の境界を示す”渡瀬線”によって著吊である. 特定外来生物として昨今問題になっているジャワマングースを移入したが, 当時困っていた野鼠やハブの被害の減少のために生物学の知識を社会に役立てようと 積極的に活動した強いパワーをもった人であったことは否めない.

  日本生物地理学会のこのような歴史を考えたとき,学問としての枠にとどまることなく, 生物学を社会に役立てることができればと思う.生物学に関するフォーマルなシンポジウムの他に, 昨年よりこのミニシンポジウムをもつのはこのような理由による.

  ”清濁相併せもつ”あるいは”酸いも辛いも嚙み分ける”という言葉がある.人間は生物であり動物である. だから生物(動物)であることに由来する,いわば”野生”をもつ.一方,大きな頭脳を有し, 顕在化した理性と多様な文化をもち,他の動物はもち得なかった詳細な言葉によって,明確に考え, 他人に意思を伝え,そして他人を理解することができる.”ヒト”ではなく”人”による,つまり”理性” による意思決定がなされるためには,理性と相互関係をもつ野生がどういうものかより詳しく知る必要がある. 知ればその対処法を考えることができる.

  人間を含め,この地球上に生息するあらゆる生物に共通するもの,それは生命である.では,生命とは何だろうか? それは”繰り返す”ことであると私は考える.ドーキンスは,これを "The Selfish Replicator" (Dawkins, 1976) と呼んだ.地球上に生命が誕生して45億年,現存するあらゆる生物は, 結果として生命が断ち切られないような手段をもったと仮定する.子供は可愛い,孫は目に入れても痛くない.何故か? この答えを,人類は宗教や倫理とは別に,科学で語ることができるだろうか( D. Evans & O. Zarate, 1999: 鷲谷, 2001).

  今回のシンポジウムは,地球環境の問題に生態学の視点から取り組んでいらっしゃる方, そして科学あるいは医学ジャーナリストとして長いご経験をもつ先輩をお迎えして,人間社会のあるべき姿を大いに語り, また後世に引き継いで頂く場とした.私も,Hamilton (1964) に基づく呪縛つまり”利己の壁”について考えてみるとともに, 新しい社会は何と共にあるのかリラックスして皆様とともに考えてみたい.